話す人
- 東宝プロデューサー
岸田 一晃さん
国内興行収入15.3億円、観客動員数 120万人を記録し、韓国では邦画実写映画の歴代2位となる観客動員数125万人を記録した、通称「セカコイ」こと『今夜、世界からこの恋が消えても』から4年。
監督:三木孝浩さん、音楽:亀田誠治さん、原作:一条岬さん、主演:道枝駿佑さんの「セカコイ」チームが再集結し、生見愛瑠さんをヒロインに迎えた『君が最後に遺した歌』(通称:君歌)が3月20日(金・祝)に公開されます。
舞台となったのは、生見愛瑠さん、一条岬さんの出身地でもある愛知県の東三河地域。
豊橋市や蒲郡市の趣ある風景が、歌を通して愛を描く本作をさらに温かくも切ないものにしています。
春日井市を舞台にした『ディア・ファミリー』に続き、今回もプロデューサーの岸田一晃さんにロケ地の魅力や作品への想いをうかがいました。
―愛知をロケ地に選んだのは
『君が最後に遺した歌』は、詩作が趣味の春人と、歌の才能を持つが文字の読み書きが難しい「発達性ディスレクシア」を抱える綾音の物語です。原作では二人が住んでいる場所について言及されておらず、綾音が上京するのにどれくらいの距離感にするべきか、監督含めとても悩んだ部分です。沖縄―東京間のような物理的な距離が二人の障壁になってほしくないという思いがあり、高校生でも行ける距離ではあるが、「行かない」という選択肢が取れる、つまり「会わない」ことが相手のためになると思える距離はどのあたりだろうと考えた時、新幹線に乗れば約1時間半で東京へ行ける愛知に白羽の矢が立ちました。
ロケハンを進めていく中で、愛知が東京にアクセスしやすい絶妙な位置にありながらも、美しい自然や街並みが残っていて、ここであれば地方都市らしさが表現できると、撮影場所が愛知に集約されていきました。
また、原作で観覧車がキービジュアルになっており、イメージ通りの観覧車が蒲郡にあったことも大きかったです。実は、観覧車を撮るのはとても難しいのです。というのも、観覧車の多くがバブル時代に建設されており、30~40年経ったいま、耐用年数の関係で全国的に取り壊されつつあるからです。観覧車と、監督が好きな路面電車のある美しい風景に出合えたことが決め手となりました。
―印象に残ったロケ地
蒲郡にある無人島がとても美しく、印象に残っています。島のビジュアルが「セカコイ」の江の島を想起させるため、作品や場所が違っても同じ情感を喚起させる風景が差し込まれるのは粋じゃないか!ということで(笑)、島での撮影はマストでした。
春人が自転車で駅に向かう、蒲郡の青い橋もとても綺麗ですよね。ああいう地方都市感を東京で撮るのは正直難しい。上京する綾音にお別れを言うため、春人が自転車で向かうシーンは、橋の向こうの抜け感や風景があってこそ、説得力があると思っています。物理的・心理的な距離を表現するには、やはりしかるべき場所に出向いて撮らなければと思います。
また、市役所では、職員の方が実際に着用しているガマゴリラの描かれたポロシャツをお借りし、撮影に臨みました。本物を使わせていただいたことで、よりリアリティが出せたと思います。
豊橋の駅も、綾音がストリートライブをするイメージが作り込めた、思い出深い場所です。春人が見守る中、綾音が歌い始める場面では、二人の間の空気感とその周りの聴衆の空気感が共鳴し、高揚感のある印象的なシーンになりました。
―お気に入りの愛知グルメ
愛知へ行ったら「山本屋本店」の味噌煮込みうどんは必ず食べますね。
名古屋駅ホーム内にある「きしめん 住よし」も外せません!
―愛知の魅力
愛知の魅力は「ロケ地の幅が多様なところ」です。名古屋駅周辺には多くの人で賑わう活気ある繁華街があり、私が大阪出身のせいか、高層ビルや百貨店、地下街も含めて、梅田に近い感じがします。名古屋駅前のような洗練された都会の風景、栄のような雑多な雰囲気、ちょっと足を延ばせば田舎の風景が広がっていたりして、拠点にするにはとてもいい場所です。
さらに、海もあり、今では希少な観覧車もあります。『ディア・ファミリー』のときにも感じましたが、歴史と誇りをもつ伝統校も多く残っています。別の作品でも、愛知県内にある1950年代の貴重な建物を使わせていただきましたが、近代的な建物も歴史ある建物も存在し、かつ豊かな自然もあるというのが愛知の魅力ではないでしょうか。
また、お城がある地域特有の文化も感じます。土塀や石畳、建物など大切なものを壊さず後世に遺す一方、当時の最先端技術で築かれたもの=お城なので、新しい建物を建てようというマインドもある。歴史ある建物を保護しながらも、新しい建築物を生み出せるのが愛知だと思います。
そのため、時代劇だったり、戦後の話だったり、ちょっと昔の昭和の話だったり、いろいろな時代のものが撮影しやすい、とても貴重な場所だと思います。
―フィルムコミッションに対して
映画製作は、企画→脚本→ロケハンをしてから撮影に入ります。脚本が決まってからロケ地を探すため、フィルムコミッションの方々とやりとりを始めるのはロケハンから、というのが通例です。
可能であれば、全国のフィルムコミッションが連携してロケ地サイトを作成し、脚本の段階から検索できるといいですね。現在もロケ地サイトはありますが、地域ごとやプロジェクトごとに情報が分かれていたり、内容が古かったりして調べにくさを感じています。知らなかったロケ地が「見える化」されることでフットワークも軽くなりますし、効率的に映画を製作することができます。
こうした背景には、2022年に映画界の働き方改革として「日本映画制作適正化機構」が設立されたことが大きく影響しています。職場の環境改善としてはいい取組みですが、1日で撮影できる量に制限があるため、どうしても関東近郊で撮らざるを得ないのが現状です。
例えば、今回のような魅力的な観覧車があっても、観覧車だけ撮りに行くカロリーは、今の労働環境改善の取組みからすると非常に非効率です。脚本の段階から観覧車の周りに魅力的な場所がたくさんあることがわかっていれば「観覧車ではこういう芝居をしてもらって……。△△と□□が近くにあるから次はこういう展開にして……。」とロケ地に寄せて脚本を書くことができ、愛知ロケを前提としたキャストのスケジュール確保や予算取りができます。
―「セカコイ」チーム再集結
ティーンが主役のラブストーリーはあまた存在しますが、「セカコイ」には特別な空気感を閉じ込められたと自負しています。「セカコイ」独特のはかなさやせつなさだったり、色のトーンだったり、音楽だったり……大衆的ではない、どちらかというとハイセンスな色合いや音楽が、当時の若者に刺さったと感じています。衝撃的なラストを迎える物語自体の面白さももちろんあると思いますが、あの独特の空気感を再現するには、このメンバーが必要でした。同じ感性や感覚をもった「セカコイ」チームが再集結すれば、おのずと目指すべき方向性は見えてきます。「君歌」は「セカコイ」の続編ではありませんが、精神的な続編として「セカコイ」というジャンルに音楽という新しいチャレンジを加えて挑んだ作品で、方向性のすり合わせをしなくても、チャレンジの部分からスタートできたのは、このメンバーだからこそだと思っています。
私自身、音楽映画に携わるのは初めてですが、音楽映画は非常に難しい。どのような曲を作り、どのように演奏し、歌うのか。音楽でお化粧をするラブストーリーではなく、歌詞自体がセリフになるような構成、楽曲づくりを目指しました。キャラクターが何を感じ、どのような想いで歌っているのかがわかるよう、物語と曲をリンクさせ、ただの音楽映画にとどめない、というのを目指しました。
「春人が書いて、綾音が歌う」という唯一無二のカップリングが大事でしたので、春人はもう一度道枝さんにお願いしたいと思っていました。綾音の役をどなたにお願いするかは本当に悩みましたが、生見さんに演じていただき、とても救われました。世間ではバラエティーのイメージが強いかもしれませんが、とにかく努力の人。歌とギターをゼロから始め、練習に約1年半を費やして挑んでいただき、私たちがチャレンジしたかったことを具現化してくれました。この映画の中には皆さんが知ってる「めるる」ではなくて「生見愛瑠」がいます!
―愛知県出身の生見愛瑠さん
生見さんの出身地とロケ地が愛知なのは偶然ですが、生見さんが綾音という役を演じるにあたって、愛知で撮影できたことはとても良かったと思っています。彼女の中で、地元であるこの場所から東京へ行くんだ、ということが感覚的に理解でき、そのイメージに齟齬がないことがリアリティにつながったと思っています。
―撮影でこだわったポイント

監督が「春人と綾音のドキュメンタリーのような10年間を切り取った作品にしたい」とおっしゃっていて、「さざ波」のような映画を目指しました。二人にとっては激動の人生だったかもしれませんが、誇張したりダイナミックに描いたりするのではなく、二人に寄り添い、二人の関係性や感情の揺らぎを丁寧に描くことにこだわりました。
また、どのように歌を届けるかにも心を砕きました。生見さんには「レッスン段階からとにかく楽しんでほしい。綾音が音楽を楽しんでいないと、音楽映画としての説得力がなくなってしまう。音楽が大好きで、楽しんで演奏して歌っているというのが込められたら。」とお伝えしました。その想いをしっかり受け止めてくださり、楽しいシーンもせつないシーンも音楽で表現されていて、とても素晴らしかったです。
―印象に残ったシーン
これまで企画したどの作品にも「ここが観たい」という自分なりのポイントがあるのですが、本作においては一番最後の春人の表情です。企画段階から、作品タイトルにも返ってくる、この重要なシーンを道枝さんに演じていただきたいと考えていました。それをレベルアップした道枝さんが完璧に演じてくれて大満足です!
「セカコイ」の時の十代の道枝さんは、彼にしか持ち合わせないイノセントな雰囲気がありましたが、4年の時を経て、彼の良さはそのままに、より大人っぽさやかっこよさが研ぎ澄まされ、素敵な歳の重ね方をしていると感じました。いろいろな活動を通してスキルアップされ、自分の考えもしっかり持っていて、とても魅力的な方です。先日の舞台挨拶でもおっしゃっていましたが、撮影前に監督に「成長した姿を見せる」と宣言し、見事に有言実行されていました。
―上映後の手応え
本作は、文字の読み書きが難しい女の子の前に詩が書ける男の子が現れる、将来の夢を持てない男の子の前に未来の扉を開いてくれる女の子が現れる、というピースがはまる物語です。人間は誰しも完璧ではありません。「自分の足りないところを補ってくれる人に出会いたいし、自分もそういう存在になりたい」といった感想を多く寄せていただき、とても嬉しく思っています。
いわゆる業界の方々はみなさん「めるる」に驚いていますね。演技、歌も含めて、こんなことができる人だったんだ!と。彼女のポテンシャルはココにあると思っていますので、ぜひ多くの方に気付いていただきたいです!
―メッセージ

この映画は欠けた者同士が出会い、歌づくりを通して、一緒に前に進んでいく物語です。
そうしたストーリーも楽しんでいただきたいですし、二人をつなぐ重要な要素「歌」にキャラクターの心情が込められているので、ぜひ映画館で観て、聴いて、体感していただきたいと思います。
二人の物語の行く末を見守り、最後の歌に込められた意味を感じ取っていただけたら嬉しいです。

















